第49回 オープンカレッジ

2016年02月28日 22:47

海と人間・・海があるから命がある : 山崎祐介(富山商船高等専門学校名誉教授)

まえがき

一般の人は海への関心が少ないのですが、海のおかげで地球上の生き物は生きていること、そして、その海が人間の心ない所業によって危機に瀕しつつあります。

海の総面積は3億6000万平方kmで、地球上の表面の70.6%を占め、陸地の面積の2.4倍にもなります。平均の深さは3795mで、多くの海流があります。

海は、生物が生きていくうえで大きな役割を果たしています。海は、動植物の故郷、食糧基地(別に講演する)であり、かつ、地球環境調節システムの心臓です。海は、太陽熱を貯蔵し海流に乗せて運んで地球の気候を決め、蒸発により淡水を発生し、二酸化炭素を森林以上に吸収してくれています。海のおかげで、地球上の命の存続があります。しかし、海の浄化能力を超えた海洋汚染が進行中です。これは、海の自浄能力を超えた人工のゴミや廃水が原因です。本講演では、海は地球環境システムの心臓であることと動植物の故郷であることを主に説明しました。

地球の気候を決める

海には太陽光が大量に注がれています。その熱エネルギーは、海水に溜め込まれ、海流に乗って温度の低い海に流れていきます。温かい海が熱くなりすぎないように、冷たい海を少しでも暖かくというように地球全体に熱を送り出しているのです。このように、大気の大循環と並んで地球の気候を制御してくれているのです。

真水を供給

海にそそぐ太陽光による熱エネルギーは、海水の蒸発にも使われ、大気に水分を補給し、それが雲となって雨や雪(塩分を除いた真水)になり地上に降ってきます。動物はそれを飲み、植物はそれを根から吸って成長します。例えば、温帯に暮らす人間は3~5日水を飲まないと死んでしまいます。成長した植物の果実は動物の食糧になります。

CO2を吸収、酸素を供給

地球の気候変動と大きな関係をもつ海は、地球温暖化を和らげる吸収源としての役割が期待されています。海は、人間活動により大気中に放出された二酸化炭素(CO2)の約30%を吸収していると言われています。また、昨年、英科学誌ネイチャー・ジオサイエンス(電子版)に掲載されたというロイター時事によると、「世界の沿岸海域の海草は単位面積当たりで陸上の森林以上の二酸化炭素 を吸収していることが分かった。海草が気候変動問題解決に一役買う可能性がある。」と言われています。

CO2による温暖化により、海水温の上昇し気候変動の一因となっていて、昔とは違う雨の降り方(豪雨、集中豪雨)を実感しています。IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change 気候変動に関する政府間パネル)は2013年.9月に、有効な対策が取られなかった場合、今世紀末に地球の平均気温が最大4.8℃、海面水位は82cm上昇すると予測した第5次報告書を発表しました。さらに、人間の活動が温暖化の主要な原因である可能性を「極めて高い」(95%以上)と評価しています。

母なる海

母なる海の「うみ」という漢字は、「生み、産み」とも書くことができ、「人間は海で生まれた」ことを連想させます。詩人・三好達治は、『海よ、僕らの使う文字では、お前の中に母がいる。そして母よ、仏蘭西(フランス)人の言葉では、あなたの中に海がある。』といっています。フランス語で海はラ・メール、母はメールといいます。

「人間は海で生まれた」ことについて、35~40億年前の熱水が噴き出す深海に、原始的なバクテリアが芽生え、進化の過程を経て、20万年前にヒトの存在があるということです。ソ連の生化学者アレクサンドル・オパーリンの、1936年の論文「生命の起源」が支持され、今の定説になっており、基本的な考え方は今日も変わっていません。

地球が誕生してから6億年ほど経った頃(40億年前),海で生命が誕生した、海は動植物の故郷といわれています。当時の地表は強い紫外線や荷電粒子が容赦なく降り注ぎ,生命にとっては致命的な環境でした。生命が存在できる環境は海中だけでした。地球の表面が冷えはじめたころ、地球で初めての有機化合物である、炭化水素が空気中に発生しました。やがて、この有機化合物は、雨にまじって原始の海へ入り、オパーリンが名付けたコアセルベートという、生命をもった小さな液のかたまりになりました。そして、コアセルベートは、ほかの物質と作用しあって単細胞の生物へと生まれかわっていったと言われています。

人間は水と無関係ではいられない

私たちの体は約60%が水です。例えば、血液90%、脳80%、網膜92%、新生児80%と言われています。ですから、体重の1%の水不足で猛烈に喉が渇き、3%の水不足で脱水症状になり、3~5日間水を飲まないと死亡してしまいます。人間の血漿に含まれるミネラル成分のバランスは、海水のミネラル組成とそっくりと言われ、水に依存した生活がなされてきました。世界の四大文明(エジプト文明ではナイル川、メソポタミア文明ではチグリス・ユーフラテス川、インダス文明ではインダス川、黄河文明では黄河)の共通項は水でした。

しかし、今、深刻な水飢饉が迫っています。このことについては、第七編 海の恵み -食糧問題 -(世界の食糧・水問題)-で別途お話しします。

塩分も必要不可欠

海の中で命を育み進化してきた生物は、塩分が含まれた体液で身体を満たすことで、淡水や陸上で生きることができるようになったと言われています。体の中での塩のはたらきを簡単に示しますと次のとおりです。

・細胞を正常に維持する

・細胞と体液の間の圧力(浸透圧)のつりあいを調整

・消化

・胃酸や胆汁の成分、殺菌作用

・腸で栄養素の分解や吸収を助ける

・酸性、アルカリ性のphバランスの維持

・血液が酸性にならないで、一定の弱アルカリ性を保つ

・脳からの神経伝達にナトリウムイオンが関係し、感覚や刺激、命令の伝達に重要な役目

海に捨てたプラスチックごみ

世界の海では、毎年100万羽以上の海鳥と10万匹にのぼる哺乳動物やウミガメが、プラスチックなどをエサと間違えて食べたために死んでいるほか、プラスチックが分解されずにどんどん微細化しマイクロプラスチックになるため、海洋の食物連鎖の要となるプランクトンからもプラスチックが検出されていると言われています。(出所:Wired news 2004.6) マイクロプラスチックとは、漂流・漂着ごみのうち約7割を占めるプラスチックゴミが、海岸での紫外線や大きな温度差で劣化して海岸砂による摩耗など物理的な刺激によって次第に細片化していき、サイズが5mmを下回ったものを言います。

環境省(以下、同省)の最近の推計では、2013年度全国の漂着ごみの量は、31~58万トンで、個数では最も種類が多かったのはプラスチック類で6~9割を占めていたとのことです。

瀬戸内海沿岸海底ごみの調査では、回収した海底ごみの合計重量は約4.5トン、回収されたごみの種類としてはプラスチックが最も多いとのことです。

景観の悪化や、魚が食べて体内に取り込まれることによる人体への影響が懸念されています。同省は今年度から、日本近海で漂流したり、海底に堆積したりするごみの回収を支援する事業を始めます。ごみが岸に流れ着くのを待っていては遅く、海中にあるうちに回収するほうが効率的で浄化効果も高いので、底引き網等で集めることなどを想定しているとのことです。

海洋の酸性化

気象庁や東邦大学理学部によると、海洋では既に海水の酸性化が始まっていると言われています。「海洋の酸性化」とは、 大気中の二酸化炭素濃度が増加すると海洋中に溶け込む二酸化炭素の量も増加して海が酸性化することを言います。

海洋酸性化は、二酸化炭素吸収能力の低下の他、多くの海洋の生態系に深刻な影響を及ぼす怖れがあります。海洋酸性化の進行によって食物連鎖の下位に属する植物プランクトンや小さな動物プランクトンが生息、繁殖しにくい環境になってしまうと、上位に属する生物にも影響が及ぶ可能性があります。この結果として水産資源等への影響が懸念されます。なぜ、海が酸性化するのかについては、原因は明らかです。 産業革命が始まって以来、石炭、石油、天然ガスなどの化石燃料が大量に燃やされ、森林伐採が進み、超多量の二酸化炭素が排出され、大気と海に排出されたガスは、まずは浅いところに広がり、ガスは海流に乗って、何百年もかけて深海まで運ばれます。海はどれくらい酸性化しているじかについては、これまでに海洋の表層水の酸性度は30%増加していると推定されています(IPCC, 2013)。 そして、このまま二酸化炭素の排出が続けば、2100年には、1800年と比べて150%も酸性度が強まることになります。1.5倍にもなる海洋酸性化を元に戻すことは一般的にできないと言われています。私たち人間が「どうしたら海洋酸性化を防ぐ、つまり二酸化炭素排出を抑える」かを真剣に考え実行しなければならないのです。

それなのに海洋汚染

このようにさまざまな役割を果たしている海が今、危機的状況にあると言われています。

人間活動に伴って発生するゴミの投棄や化学物質による汚染が深刻化しています。昔から海はゴミ捨て場でもありました。海は自然ゴミを分解して自然に戻す能力を有していますが、今では海が自然に帰せないゴミを人間が無意識に海に捨てています。「海洋法に関する国際連合条約」では、海洋汚染の原因を次のように分類して規制を行い、海洋環境を守ろうとしています。             

陸からの汚染(川等を通じて流入する工場、鉱山、家庭、農地から汚染物質)
海底資源探査や沿岸域の開発などの活動による生態系の破壊

・汚染物質の海への流入、投棄による汚染

船舶からの汚染(船舶の運航による廃油・廃棄物の投棄、油流失事故)

・酸性雨など大気を通じた汚染日本の海上環境関係法令には、「海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律」、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」、「水質汚濁防止法」等の法律があります。

海をきれいにしようと、辺を守る多くの活動団体(小中学校の運動、県民運動、JF・NPO・NGO

会社等の活動がありますが、海岸のゴミは減っていません。掃除をする量よりも廃棄量が多

いからです。人間の意識改革が必要と言わざるを得ません。海の環境を悪化させることは、

海が持つ多くの役割を失わせることだけでなく、私たち自身の未来を失わせることにもつな

がっているのです。

2011東日本大震災で海が嫌いになった? 

よく、海が好きか、山が好きかというアンケートがありますが、それらに比べ究極な内容

ともいえる情報を探しました。東日本大震災の津波による深刻で悲しい被害が数多くありました。その後で、インターネットに投稿された、海に関するみなさんのご意見のなかで、注目に値すると思ったものを三つだけピックアップしましたので、紹介します。

・「島国の民が海に背を向けたり敵視したりしては絶対にいけない。上手く付き合う術を、身につけないと」

・「海が多くの人の大切な命を奪って行ってしまった。・・でも海が悪いんじゃないです。海が今まで文句を言った事がありますか?今まで、海を汚し続けていたのは人間ですし、都合のいいように海を作り変えていたのも人間です。魚だって、海藻だって、塩だって、海は恵んでくれていました。文句も言わず。それに水だって。・・人間は海との係わりなしでは生きていけない生き物なのです。だから、僕は海から逃げ出すのはやめにしました。嫌いになるのもやめました。」

・「大震災によって海を見るのも嫌になった方はたくさんいると思うし、当然の事だとも思う

し、尊重もしたい。でも俺は、海が今までに与えてくれた恩恵から背を向けたくない。」

あとがき

海の機能の中で、浮力があります。この浮力のおかげで人間は国際物流を行い快適な生活を送っています、海は世界中につながっていますから、省エネの船舶による国際物流が行われるのです。国際物流の船舶輸送が占める割合は99.7%にもなります。このことや、海が生き物の食糧基地になっていること、海の底には無限のエネルギー源・金属資源等が眠っていることについては別途お話しします。